SoulLinkMapというアプリケーションに最近出合った。フリーウェアと言えばのVectorからダウンロードできる。Windows用。
マインドマップや付箋的なアイデアプロセッサ系のアプリケーションを探していて、過去に公開されたフリーウェアの中に何かヒントはないだろうかと探していて見つけたもの。
最終更新は2011年でありUIには今風ではないところが色々あるが、しかし当時としてはかなり気が利いたものになっていて、最新の洗練されたUIに慣れた身でも「今となってはとても使えない」という感じではない。
アプリケーションの代表的な特徴をいくつか挙げると以下のような感じ。
自由配置できるカード型
各カードはID(=タイトル)とメッセージ(=本文)からなり、IDは省略可
各カードはマンダラート風にズームしていける(=ダイブ)
各カードはリンクでき、リンクの意味を記述できる
各カードは複数の場所に配置できる
各カードは「タグ」「属性」「ブックマーク」を設定可能で、書式もカード単位で自由に変えられる
各カードの階層構造を俯瞰できる
各カードのリンク関係を俯瞰できる
全体はツリー形式でも俯瞰できる(ただしツリービューで操作はできない)
スクリーンショット
※内容は開発者によるチュートリアルより。
書式を個別に細かく設定できるため色々な見た目になっているが、それぞれの枠と枠のすぐ上の文字列(=ID)を合わせた部分が個別のカードになっている。枠のサイズも自由に変更でき、例えば「チュートリアル1 図形の作り方」の枠の中というのは、単に枠のサイズを大きくしたその前面に他のカードを置いてあるだけで、枠の中身とはデータ上の親子関係はない。枠の工夫により階層を深くしなくても括りを可視化できる。
なお、「ルーペ」と「全体像」というウインドウがあり(画像では画面右寄り)、ビューの拡大率を上げても下げても常に詳細と全貌を同時に確認できるようになっている。
更にウインドウを複数開くことができるので、色々なことを同時にやっても行き来に煩わされずに済む。
階層構造を俯瞰するビュー(Body 俯瞰図)を使えば、あるカードから見た先祖と子孫を全て把握できる。また「ツリー」ウインドウを表示すればいわゆるアウトラインで確認することもできる(画面右端)。アウトライン操作はできないのでアウトライナーと同じ感覚では使えないが、アウトライナーと同種の構造はこのアプリケーションも備えていると言える。
ちなみに、カードは複数の場所に配置できる=親を複数持てるので、その場合は左側にも分岐が表示される。
この場合「哲学」というカードは「学問」「ソフィーの世界」「ワード集」の三箇所に配置されており、また「哲学」の中に「自然哲学」など右側に伸びた先のカードが配置されているということになる。
リンク関係を俯瞰するビューはこうなっている(Soul 俯瞰図)。Body 俯瞰図と似た見た目だが、こちらは階層構造ではなくカード間のリンク情報である。リンク関係は「協調(青)」「対立(赤)」「その他(黒)」の三種類を選択でき、関係の強さも五段階で設定できる。またリンクの意味をテキストでメモすることも可能。なお通常ビューでも「どのカードとリンクしているか」は常時表示されている。
ところで、アプリケーションを起動するといきなり「カードを作るにはどうしたら?」という壁にぶつかるのだが、カード作成はここである。
なお各コマンドのショートカットは好きなように変更できる。
一言で言うと、ネットワーク型2Dアウトラインプロセッサといった趣である。
データの構造としては無限の階層型なのでアウトライナーと同じで、標準ビューは付箋ツール風であるものの階層全体を把握するためのビューもあるのでアウトライナーと同じ役割を持たせることも可能だ。カードのデータは作成順で固定されるため俯瞰ビューでの順番の入れ替えはできないが(その点は気になる人もいるかもしれない)、標準ビューでのカードの配置によって順番その他の意味づけができる。普段は標準ビューで見ているのでデータ上の順序が入れ替え不可であることは個人的には気にならない。
あまりにも応用可能性が広いのでチュートリアルのファイルを触ってもそれだけでは一体何をどうすればいいのかよくわからなかったりするのだが、私の中にあった「こういう見た目でこういう構造のツールがあったらいいのに!」という要求にほぼそのまま応えてくれるアプリケーションであることに気がついてからは、それまで辺りを覆っていた霧がすっかり晴れたような感じで自由に使えている。
できることが多すぎて使える機能を全部活用しようと思うと混乱は免れないので、実際に使用する場合は「使いこなしたい欲」を抑えつつシンプルにただカードをぽんぽん置いていくことからスタートした方が良いだろう。公式サイトのプレゼンテーションでもそのような使い方が書かれている。
このアプリケーションを何に使っているかというと、基本的には自他の「考え」の記録と編集である。自分が思いついたこと、本で読んだこと、SNSやブログで見かけたこと、等々。特に読書メモとして威力を発揮している。ひとつのカードが複数のカードの下位に存在できるので、本のカードの子孫に置いてある引用カードを、例えば読書術について考えているカードの下位にも置いたりできる。トピックごとにあちこちからカードを集めて並べることが容易なのである。
私はまだ実践していないが、いわゆる「勉強」のためのツールとしても優秀だと思う。チュートリアルにも哲学の勉強の例が含まれているし、開発者の動機としても勉強の要素が大きいようだ。
私個人の感覚で言うと、Capacitiesに向かないものイコールSoulLinkMapに向いているもの、という感じで、時代を超えて相互に凹凸がカチッと嵌まるものに思えて一人で感動している。「あれ」と指させるもの(=オブジェクト)はCapacities、どうにか言葉で表現するしかないもの(≒サブジェクト?)はSoulLinkMapで扱えばいい。
私は個人的な特性として平面のイメージを欲しているので、アウトライナーだけでは不自由さがあるのだが、別に平面を必要としない人はアウトライナーで間に合うだろう。「アウトライナーが全てを自由にしてくれた」と感じる人の感覚を、私は「平面配置を兼ね備えた階層構造」によってやっと得たのだと思う。(ちなみに明らかに平面である必要がないもの、例えば文章を練るとかリストを作るとかいう時には私も普通にアウトライナーを使っている。)
あと完全にローカルでやれるということが良い。データのファイル形式はxml。クラウド型のWebアプリは大概スマートフォンでも利用できて便利だが、インターネットが必須であることや直接データを取り出しにくいことはリスクにもなる。サーバーの不具合で作業が強制停止させられたりするとストレスが大きい。
2024年の今だからこのアプリケーションの素晴らしさがわかるのだが、公開された当時では発想が先進的すぎて時代が全く追いついていなかったのではないかと思う。素晴らしいソフトです。