4 COLORSに関連して。
一時期の自分のJ-POP離れについてもちょっと言葉にしておこう。好きだったアーティストまでもをスルーしたのは普通に自分が悪いので誰を恨むものでもないけれど、当時のヒットチャートに辟易したのは私だけではなかったと思う。
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私の中でJ-POPは2008年あたりで一度終わっている。最も流行歌に敏感である必要がある年齢を過ぎてしまったからというのもあった気はするけど、しかしそれだけが原因のはずはない。
それでもやっぱり音楽というものからは離れられなかった。代わりとなったのはニコニコ動画の世界だ。ボーカロイド曲やアニソン、キャラソン、ゲームのBGM、既存曲のアレンジ。それまで特別二次元を好んでいたわけではなかったけど(ジャンプ漫画はある程度読むというくらいのものだった)、J-POPが私にとって地雷原になってしまったので、J-POPを視界に入れずに日本の楽曲を楽しめる世界としてニコニコ動画に住み着いてしまった。
玉石混淆極まるボーカロイド界隈やアレンジ界隈は音楽を聞く態度というものをある種高慢にさせたと思う。ただ同時に、音楽を聞くという行為に能動性をもたらしてくれたのも事実だ。それまで「流行っているものが好き」みたいなスタンスでいたのが、「流行っているものを好きになれない」という壁に直面した後、「自分が好きなものが好き」に健全に移行する、その助太刀をしてくれたのがニコニコ動画という場だった。
曲そのものとは関係ない要素によってヒットチャートから多様性が失われたことは本当に疎ましかったのだけど、それだけ当時の私はヒットチャートに依存した音楽生活を送っていたということだ。
一応その時点で好ましく感じているアーティストというのはあったわけだけど、それは相対的な評価で、あくまでヒットチャートの中でそのアーティストを見かけたならそのCDを優先して入手する、という感じだった。ヒットチャートに見えなくなったら自分の関心からも外れてしまう。辛うじてベストアルバムは追ったかなという感じ。そして嫌なものを見たくないがためにヒットチャート自体を見なくなったら、新曲というもの全体が自分の視界に入らなくなってしまった。
J-POPから目を背けてニコニコ動画に流れていった当時にその点を反省したわけではなかったけど、それまで聞いたことがなかったような種々の音楽に囲まれ、私は本当はこういうのが好きだったのか、という気づきを色々得る中で結果的に自分の音楽観は改まっていった。
そうして前に書いたように(音楽について語るということ)、音楽文化への関心は薄れたまま、音色や曲調が自分に合うかどうかだけを基準に聞くという感じに行き着いた。逆にそれまで「流行り」によって好きになった曲について、自分の感性と照らし直して「この曲は深く好きだ」と思うようになった。「好き」の深度が総じて浅かったのを深め直したという感じ。
以前の私は流行歌をただ消費していて、それらを「アーティストによる作品」とはあまり思えていなかったのだと思う。猥雑なニコニコ動画の世界をうろうろする間にちょっとだけ音楽の聴き方がわかった。
ボーカロイド曲の作曲者を○○Pと呼ぶ文化も私の意識を大きく変えたと思う。昔は歌がある曲については「歌っている人」を基準で見ていて、作詞作曲が誰の手によるものかは全くどうでもよかった。でもボーカロイド曲は作曲者が誰であるかが最も重要であって、歌うのが誰かは二の次になる。この文化を経て、例えばアニメの挿入歌やキャラクターソングについても作詞と作曲がそれぞれ誰か見るようになった(前はJ-POP以上に誰が作ったか気にしていなかった)。
関心がライトだと、ひとつのものについてそれに深く関わっている人間というのを一人しか認識できないのかもしれない。なのでクラシック音楽やゲーム音楽では作曲者がその曲に紐付けられるところを、歌だと作曲者ではなく歌手が紐付けられる。他の情報までくっつけられるほどの粘着力(=関心の強さ)がないのだ。
このように大きな転換があったのは事実だけど、ニコニコ動画での音楽体験を通じて音楽に対する関心が広がったかというと、実のところ広がりとしては大して変わっていない。元々音楽に興味が強い方ではないので(中学から大学の間は耳が空いていたらずっと何かしら音楽を聞いてはいたが、それでも)、色々聞いたからといって造詣が深くなっていく方向には進んでいかないようだ。次々開拓しようという気にもあまりならない。
変わったのは音楽世界への関心の広がりではなく、音楽を聞いている時の自己の解像度だと思う。自分はこの曲から何を感じているのか。自分はどうしてこの曲を聞いているのか。
別にそういったことがはっきりしている必要はないし、わざわざ自分に問うて明らかにしようとしたわけでもない。自分に問いはしないけれど、何かを聞いている時に「音楽によって私に何かがもたらされている」ということを感じ取るようになった。
そうして、「この曲のこの部分が私は好きだ」ということを言えるようになった。ぼんやり生きていた私にとっては、それは非常に大きな変化だった。
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