最近ちょっと書くことに調子づいてきたので、次は何書こうかなと少しうきうきした気持ちで考えた。
しかし「何を書くか」というふうに考えるとあまり思い浮かばない。「何を…何…何というと何もないな…」みたいなことになる。次々書けている時は「何を書くか」ということは考えていない。他の人はわからないが、私はそう。
自分に「何を書くか」と問うてしまうと、答えとしては「書くに相応しいこと」の中から捻り出さざるを得なくなってしまう感じがある。「適当な何か」という答えは出せない。そう答えられるように柔軟性を訓練しておかない限り。
しかしながらそもそもの話、書くに相応しいとはつまり「新しい何かを含む存在価値のある文章」というようなことになってしまうが、普通に考えてそんなに新しいことは言えない。もちろん次々新しさを提示できる人というのは存在するが、それでもいつかは枯渇するパターンが多いし、そうでなくともそんなごく限られた天才の在り方は参考にならない。
新しいことは、言おうと思って言い続けることはまず不可能だ。
それでも、多くの作家やブロガーはなんだかんだずっと書き続けていて、常に何かしら新しいことが含まれているように思える。新しいと言っても別に「この世界に初めて誕生した前代未聞で唯一無二の考え」である必要はなく、書き手にとって、そして読み手の多くにとって「今まで考えたことなかったかも!」となれば十分だ。これまでこの世に生まれ死んでいった人間の数というのは一体何桁になるのか見当もつかないが、それだけの人間が存在してきたわけだから、生き方考え方に関する大抵のことはどこかで誰かが言っている。完全に新しいものは新しい事実が生まれる学問領域にしかないだろう。
多くの書き手は「新しいことを言うぞ」と気負って書いているようには思われない。もっと淡白に、なんか書いてたら面白くもなった、という雰囲気のものが大半だ。変に「新しいだろう」と言わんばかりに書くと、それが別に新しいものではなかったり、時を経て新しくなくなったりした時に魅力が消え失せてしまう。
要は、新しいことを書こうなんて思っていないところにも、真剣に書きさえすれば新しいことは生まれるのだ。むしろ、新しくないし大した意味もないようなところに何らかの新しい意味が生まれ出ることの方が楽しいし、素朴な感動がある。
NHKの「チコちゃんに叱られる!」を見ていて痛感するが、普段私たちは本当にボーっと生きているし、いちいち物事を気に留めてはいない。真面目で誠実な人でもほとんどのことはスルーしている。そもそもこのことは人間性とはあまり関係がない。そして、別にボーっと生きていちゃいけないということもない。この番組では「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られるが、何も本気で「そうであってはならない」と突きつけてきているわけではない。単純に、あらゆる事物には経緯と意味があるのに私たちはそれにあまり目を向けていないよね、というメッセージを発しているだけだ。番組の調査結果の正誤もそのメッセージの前では比較的どうでもいいことである(もちろん間違ったことを流してもらっちゃ大迷惑なのだけれども)。
何が言いたいかというと、どんなことにも虫眼鏡を当てるだけで多くの人にとっては新しいことが現れるということだ。書き手によって虫眼鏡の倍率は違っており、いつも1.1倍にしか拡大しないようではあまり意味を成さないが、10倍に拡大するなら何かはそこに見えてくるはずである。世界にとって新しいことではなくとも大抵の人が見たことのない景色なら、趣味の書き物としては十分だろう。
となれば、何かしら書きたいとなった時に考えるべきは、「何を書こうか」「何を言おうか」ではなく、「何に虫眼鏡を当てようか」ということになる。何に虫眼鏡を当てても何かはある。何かを見出すまで倍率を上げ続ければ良いのである。
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