本屋さんに行くと、読書術の本というのがたくさん置いてあります。
○○リーディングという名前がついていたり、速読法を紹介していたり、逆に熟読を勧めていたり、読書術といっても様々です。
読書術がひとつに収斂しないのは当然で、本の種類も多様なら、著者のスタンスも千差万別で、そもそも読む側の私たちの環境や問題意識や性格もバラバラです。何のためにどんな本をどう読む必要があるか、それは人の数だけ多様であるのが普通です。
そして人に言われなくとも、私たちは本によって様々な読み方を自然にしています。例えば速読も、方法を詳細に教わらなくたって本屋で立ち読みしている時はだいたい速読になっています。「ぱらぱらめくって引っかかるキーワードの周りだけじっくり読む」、という速読のキモは、「ぱらぱら飛ばして読まざるを得ない」という状況下にいれば普通に実践していることですよね。それを更に有意義なものになるような工夫を加えて意識的におこなって、そしてその読み方でも良いと受け入れればそれが速読術ということになるのだと思います。
さて、そのように多種多様な方法があり得る読書術ですが、唯一大事なことは「メモを取る」ということだと思います。
速読は立ち読みで自然にやっているよ、と先ほど書きましたが、じゃあ立ち読みしていれば本を買わなくても良い、座って読まなくても良い、ということになるかと言えば、全くそうではありません。なぜなら、メモを取れないからです。速読もメモがあってこそ「速読術」になり得ると思っています。
メモを取らない読書は、読書に費やした時間の価値を大きく減じます。五感をフルに使った実体験と違って、読書体験は言葉を忘れてしまうと内容をすっかり失いかねないのです。なので、読書体験をその後の糧にするには、読書体験を鮮やかに蘇らせるきっかけとなるものを書き残さなくてはなりません。これを見ればその本で感じたことを次々思い出せる、という鍵となるものが必要なのです。
と言っても、それは全く大仰なものでも難しいことでもありません!
ここからは読書メモをあまり取ったことのない人に向けた「メモ術」の話になっていきますが、最初に述べたように読み手は環境も問題意識も性格もバラバラなので、必要なフォーマットもバラバラであって当たり前です。ノートのどこにどう配置してどんなメモを取るかというのは、自分にとって何が必要なのかを自分と対話して決めていくしかありません。
ただ、私の経験上、これを意識すればこの本のことを忘れないぞ、というポイントがいくつかあります。今回はそれを紹介したいと思います。
①事実として重要なことを図化しよう!
どの本も、何か事実があって、それについて述べているはずです。こんな社会問題がある、こんな仕組みで政治や経済が動いている、こんなトラブルが仕事にはつきものだ、人間とはこういう心理が働いている、などなど。自然科学や文学・語学などについてももちろんそうです。小説なら、こんな出来事があって、こう展開した、ということがその作中での事実になります。
そういった、その本で著者が示したい事実を図で簡単にまとめましょう。綺麗で正確な図を作るのが目的ではないので、紙一枚にさらさらっとで構いません。もっと書きたくなったらどんどん増やせばいいです。
どんな図を使えばいいかわからなくなってしまったら、例えば黒上晴夫氏がまとめているシンキングツールを参考にして、合いそうなものを選んで整理してみるといいかもしれません。
あらゆる主張は事実への反応として存在するので、「何の話だったっけ」というのを記録しておくと、後からメモの意味がわからなくなるという事態を防ぐことができます。
図より文章の方が自分に馴染むという人は、短い文章の箇条書きや少し長めの文章で一冊要約するなど、文章を使ったまとめ方をするのが良いでしょう。
②著者のメッセージを一文で書こう!
メモを取ろうと思ったからには著者と何か共鳴する部分があったはずです。問題意識が同じだとか、まるで私のために書いてあるみたいだとか、こんな人になりたいと感じられたとか。著者の結論は自分の意見と違っていても、やりたいことは似ているようだとか。その部分をひとことで書いておくことをおすすめします。
端的に表されている一文を探して抜き書きするというよりは、自分の言葉で「この著者はこれが言いたかったんだろうな、これが著者の人生のテーマなんだろうな」と考えて書き表してみると良いと思います。
本というのは著者の「こんな社会・世界であってほしい!」というような思いによって生まれるものですよね。本を書くのは大変なことですから、何か信念がないとなかなか成し遂げられません。その信念が読み手それぞれと合うか合わないかというのは相性次第であり、著者のことを「なんか良い」と感じられたら幸運です。その幸運を逃さずキャッチしましょう。
③自分が感銘を受けた文章を抜き書きしよう!
今度は自分基準のメモです。
まずは「この一文良い!」と思った時にはそれをどんどんメモしましょう。
事実として重要なことをメモするのも大事ですが、文そのものが心に響いたとかクスッときたとか、自分の感性に従って興味深い文章をメモしていくと、読書メモが言葉の宝箱のように価値あるものになっていきます。
特に、「自分もこれをしたい」「自分もこう生きたい」と感じた時にそれを書き留めておくと、メモを読み返した時に自分の願望や理想を思い出して心機一転のチャンスになることがあります。
④読みながら思いついたことを書こう!
読書は自分の脳を刺激する行為なので、本を読んでいると急にあれやこれやと閃きを得ることがあります。それらもできるだけ書き残しておきましょう。
閃きは、本の内容と関連することもあれば、全く関係ないこともあります。本の主題に対する仮説、自己分析、生活への応用案、明日の仕事のアイデア、今晩食べるもの、などなど。全部読書体験の一部として読書メモの中に含めてもいいでしょうし、明らかに関係ないものは別のノートに書き留めるのでもいいと思います。
とりあえず、読書をすれば何か閃くものだと考えて、自分の思いつきをメモに取る用意をしておくと良いでしょう。本の内容そのものよりも、本から刺激を得て自分で閃いたことのほうが自分にとって重要だということもよくあります。
⑤登場した固有名詞を書き留めよう!
どんな種類の本でも、大抵はたくさんの固有名詞が登場します。人名や参考文献、地名に料理の名前、その他色々。
多くの場合は何かエピソードがあってそれらの名前が出てきますが、エピソードを面白いと思っても固有名詞は案外覚えておけないものです。「どんな話だったか」というのは自然と覚えられるのに、「何の話だったか」はあっさり忘れ去っていることがままあります。
出てきた名前を全部漏らさず書こうとする必要はありませんが、面白かったことは是非具体的な名前もセットでメモしましょう。
名前さえわかれば後で調べることも簡単にできますからね。
おさらいすると、
①事実として重要なことを図化しよう!
②著者のメッセージを一文で書こう!
③自分が感銘を受けた文章を抜き書きしよう!
④読みながら思いついたことを書こう!
⑤登場した固有名詞を書き留めよう!
の五点です。
ノートのページ内にそれぞれの枠を作ってもいいと思います。私は書く場所を区別することはせず、ペンの色を変えて同じ場所にどんどん書き連ねています。本によって、何ページもメモすることもあれば1ページの上半分しか使わないこともあります。全ての本について上記の五点を揃えてメモするわけでもありません。
紙面の使い方も人それぞれですから、後から追記したいタイプの人は余白を多めに取り、そういうことはあまりしないという人は詰めて書いて良いと思います。必要が生じればその都度別の紙に書いて挟んだり付箋を貼ったりすることも可能です。もちろんデジタルツールを使うのもありです。続けやすい形でやりたいぶんだけやりましょう。読書というのは個人的なもので、やり方に正解はありません。
どんな形のメモであれ、自分で書き残したことは自分の糧になり宝になります。仕事で役に立つこともあれば、生活習慣を変えることもあり、気持ちが上向きになることもあります。読みっぱなしで記憶が薄れるとともに失ってしまうのはもったいないです。
皆さんの読書体験が素敵なものになりますように。
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